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 海岸海洋研究グループ(内山研)への所属を考えている学生さんへ
 
   内山雄介 (神戸大学 大学院工学研究科 市民工学専攻)
 

はじめに

 このメッセージは学部新4年生、M1あるいはD1から内山研への所属を検討している本学および他大学・他機関の学生さんに宛てたものです。学部3年生以下の学生さんや高専生には内容的に少々難しい箇所もあるかも知れませんが、研究室の雰囲気、我々のチームの考え方は感じ取ってもらえると思います。当研究室に興味のある人、どこの研究室にしようか迷っている人、気軽にメールなどで問い合わせて下さい。もちろん直接訪問も大歓迎です。なお、学外から本学市民工学専攻を受験する予定の人で当グループへの所属を希望する人は、事前に担当教員(内山)まで連絡いただければ適宜対応します。大学院博士前期(修士)課程の入試には一般選考に加えて推薦入試(学外からのみ)もあります。推薦入試は8月の一般選考に先だって7月中に実施されます。詳しくは市民工学専攻および工学研究科入試関連情報HPなどで確認して下さい。

研究室の選び方

 所属研究室を決めるときには、研究室のHPを見たり、研究室を訪問したり、講義などでの教員の人となりを精査して、自分の考え方やスタイルが研究室の方針にフィットするかどうかを基準に選ぶことが大事です。軍隊のような規律をもってスパルタ式で学生を訓練する教員、完全放任主義で学生の自主性に任せる教員、学生とのコミュニケーションを重視する教員など、教員の指導方法は千差万別です。それぞれの研究室のスタイルもまた、理論を主体とする研究、実験を主体とする研究、数値シミュレーションを主体とする研究、現地観測を主体とする研究等々、千差万別です。研究分野についても(土木工学では)、水工系、地盤系、材料系、構造系、計画系など多様で、その分野に興味があるかどうかは当然ポイントになるでしょう。とは言っても、研究室では学部の講義で教わったことをそのまま研究しているわけではありませんので、講義の内容については参考程度に考えた方が良いと思います。

 ここで重要なことは、できる限り情報を収集し、自分の頭で考えて判断し、自分にあった研究室を選ぶということです。研究室のスタイルや方向性に共感できるかどうかはとても重要です。我々の研究室での教育・研究方針を一言で表現することは難しいですが、教員の私が敢えて言うなら、「自由な雰囲気の中で学生と教員とが日々議論しながら、数値海洋モデルを主なツールとして、海洋を中心とした地域環境・地球環境問題にアプローチする」ということになると思います。具体的なことは以下に研究テーマ、研究の進め方、教育に対する私の考え方を述べますので、それらを参考に自分にあうかどうかを判断するための材料にして下さい。少々長文ですが、内山研への所属を考えている人や迷っている人はもちろん、一般の理工学系学生にとっても、研究室の選び方や4年生以降の大学・大学院での過ごし方について参考になると思います。

何を研究するのか

 「海」の研究です。海をキーワードにして、海岸工学、流体力学、海洋物理学、地球物理学、数値流体力学などの理解を深め、それらをベースに海岸や海洋で生じる各種流体現象を科学的に再現・分析し、海洋を中心とした地球環境問題や沿岸海域環境・防災問題などの工学的課題の解決に向けた基礎および応用研究に取り組みます。海洋は宇宙などと同様に人類に残されたフロンティアの一つであり、観測の難しさなどから、未解明な問題が山のようにあります。海洋は地圏ー気圏ー水圏という地球システムを構成する主要な要素であり、地球環境や地域環境問題を考える上で欠かせないパーツです。一方で、縁辺海や沿岸域は海洋全体に占める割合は小さいものの、そこでは資源開発や漁業などの産業活動が活発に行われ、港湾・空港や埋め立てなどの開発行為、河川・排水を通じて人間活動の影響を強く受けています。特に我が国では、狭小で急峻な国土という地形的な特殊性から沿岸域には多くの人口が密集しているため、温暖化や異常気象(高潮・津波・海岸浸食など)の脅威から人間や資産を守るためにも、沿岸海洋の実態を把握し、それを予測する技術を確立することは工学的に非常に重要な課題です。

 具体的な研究手法としては、地球シミュレータなどのスーパーコンピュータや高速ワークステーションを使った海洋流動シミュレーションの実施と解析、衛星リモートセンシングデータや地球規模気象海洋モデル(GCM)データの分析、現地海浜での波や流れに関する観測と実測データの解析などが中心になります。学部4年生から当たり前のようにスパコンを使って研究します。対象とする海域としては、太平洋全域、東アジア海域、日本沿岸全域、アメリカ西海岸全域、東シナ海、日本海、瀬戸内海全域、東日本太平洋沿岸域、チェサピーク湾(米国)、南カリフォルニア湾(米国)、サンフランシスコ湾(米国)、播磨灘、大阪湾、ハドソン川感潮域(米国)、あるいは数km程度の空間スケールの海浜域まで広くカバーしていきます(参考:Projects)。取り扱う現象もエルニーニョなどに代表される地球規模の環境シグナル、黒潮などの海流の動態変動、内湾の流れと物質循環や生態系、海浜流と海岸地形など多岐にわたります。基本的に海洋の波、流れ、乱流を相手にしますが、テーマによっては環境問題に直接関連する底質、化学物質やプランクトンなども取り扱います。東日本大震災に伴う放射性物質の海洋拡散など、災害・防災的側面からの研究も行っています。各自の具体的な研究テーマについては、配属決定後に本人の希望や適性、進学の意思などを考慮しつつ、学生と教官で相談しながら決めます。学生さんからの積極的なテーマの提案も歓迎します。研究室として実施中のテーマはここに詳しく書かれています.学際的、分野横断的なテーマが多いので、海洋物理学や海岸工学以外の専門(水文気象学、海洋生物学、地球気候学、河川工学など)の勉強を必要とするケースも多いです。「環境」とは一言でいえば「複雑システム」であり、環境研究では様々な構成要素(海洋、気象、地盤、生物、化学等々)、様々な解析方法(モデル、データ、理論など)を有機的に統合し、総合的にアプローチすることで新しいブレークスルーが見えてくることも多く、まさに総合技術者たる土木エンジニアに求められる素養が必要とされるのです。

研究の進め方

 前後期の講義期間は、週に1度程度(曜日や時間は教員と学生のスケジュールにより調整)研究室の全体ミーティングを行い、各自の研究の進捗状況の報告、最新の世界の研究動向に関する報告・ディスカッションなどを行います。必要に応じて個人ゼミや海洋/地球物理学・コンピュータ・プログラミングなどに関する有志グループによるゼミを行いますが、所属学生へのオブリゲーションはこの全体ミーティングへの出席だけです。しかし、特に用事がなければ、平日は研究室に顔を出して下さい。個々の研究活動や勉強だけではなく、ミーティング、ゼミ、教員や他の学生との日々のディスカッションを通じて、世界最先端の海洋科学の動向や科学的思考法、具体的な解析方法、問題解決へのアプローチ、論文の書き方、日本語/英語での発表の仕方などをしっかりと学んでもらいます。

 研究に必要なパソコンや機材などは研究室で用意します。研究活動に関わる旅費なども研究室が支払います。研究室は24時間営業ですので、朝型・夜型など各自のスタイルで研究してもらって構いません。山のような情報やデータを科学的に分析することで現象や問題の本質を的確に捉え、なるべく簡潔なロジックで説明する、ということが研究の本質です。時間をかければ良い成果が出る確率は高まりますが、必ずそうなるとも限らないところが研究の難しさであり、面白いところです。できるだけ効率よく進めていきましょう。基本的に4年生を含む全ての学生さんはそれぞれ1人1テーマ(人によっては複数テーマ)を担当し、教官の指導のもとに、問題設定からスタートして最終的に論文などの形にするまで、各自がプロジェクトチーフとして責任を持って自主的に取り組んでもらいます。ただ、それぞれのテーマは海洋物理学の大枠で捉えればオーバーラップする部分もあり、研究室内や外部のチームと横断的に進めた方が良いケースもたくさんあります。例えばテーマAで開発した手法をテーマBにも応用する、ということを行うことにより、相互に研究の質が向上する場合もあるわけです。また、モデルの動かし方や統計解析の進め方などのノウハウ、プログラム資産などは研究室全体の財産として共有・蓄積しますので、学生間で協働するケースも多くなるでしょう。

求められる人材

 4年生進級のための単位が揃っていること、大学院の入試に受かっていることなどの資格的な条件を満たしていることが前提になります。それをクリアした上で,まず第一に海が好きな人。ここは海の研究室ですので必須でしょう。地球科学や地球環境問題に興味がある人、数学や流体力学に興味がある人は大歓迎です。研究室所属以前の学部や専攻、科目の単位の有無や得意不得意は重要視しません。ただ、流体力学や海岸工学については、実際に研究を進めるにあたって役に立ちますので、関連する科目の講義を受けているなど、ある程度の素養があった方が望ましいです。新しいことにチャレンジすることに躊躇しない性格の人は特に歓迎します。また、多くの時間は机やコンピュータに向かってのデスクワークになりますので、コンピュータやシミュレーションに興味のある人が望ましいでしょう。これらに関しては、ゼミや個別指導を通じてきめ細かな指導をしますので、経験は不問です。安心して下さい。また、学内外(海外を含む)の研究チーム(例えば、UCLA、UCサンタバーバラ、OIST、JAMSTEC、電中研、京大、立命館大など)との連携を積極的に進めていきますので、テーマによってはチームとして行動することが求められます。プレゼン・コミュニケーションスキルを高めたい人、英語力をブラッシュアップしたい人、検討の価値ありです。 エンジニアとしての素養をきちんと身につけてもらうためにも、学部生には大学院への進学を推奨します。院試の受験が必要な人には、試験勉強を最優先するよう研究スケジュールに配慮します。

世界レベルを目指す

 壁は高ければ高い方がそれを超えた時により大きな達成感が得られます。その意味で、我々の研究室では世界レベルの研究成果を出すことを志向しています。取り組んでいるテーマの多くは科学的普遍性を意識し、各種応用研究の種として多くの科学者、技術者に利用されることを目指しています。学生の皆さんには最先端の科学に触れることにより、世界のレベルを知り、世界で勝負することを恐れない社会人に育って欲しいと思っています。ミーティングなどでは最先端の研究動向を調査し、それらを超えるにはどうしたら良いのか真剣に討論します。例えば、現在我々の研究室には領域海洋循環モデルROMSという強力な武器があります。ROMSは最先端の並列計算技術を駆使した世界標準の海洋モデルですが、私はその開発チームのメンバーであり、主に波ー流れ相互作用の理論とモデル化や、ネスティングという技術を用いた超高解像度モデリングなどを通じて多くの成果を出しています。研究室のメンバーになって世界最高水準の海洋モデリングをしてみようではありませんか。

 学部生には卒業研究の成果を国内学会などで対外発表してもらいたいと考えていますが、大学院進学者は国際ジャーナル誌や国際会議での発表を目指しましょう。実際に、すでに多数の論文が一流国際ジャーナルに掲載されており、それぞれに高い評価を受けています。国際ジャーナル誌は英文で執筆しなければいけませんが、自分が携わった研究の成果と自分の名前が、世界中の人の目に留まる形で、人類共有の資産として後世まで残るのですから、これほど素晴らしいことはありません。さらに、このような業績は通常の就職に対してはもちろん、研究留学や海外での就職にも非常に有利に作用します。研究室では意欲のある学生さんを強力にバックアップします。

学位取得は資格検定か

 学生にとって学士や修士、博士の学位を取得することは大きな目的ですが、単に運転免許や英検などの資格検定と同一視してはいけないと考えています。将来皆さんが技術者や研究者として社会に羽ばたいたとき、そこには解答の用意されていない問題が山のようにあり、そもそも問題提起そのものを求められる局面も多々あります。山を超えたと思ったらまた次の山がある。ぶつかってはそれを乗り越える、ということの繰り返しです。研究室に所属している数年間は、問題を設定し、その本質を的確に捉え、解決に向けて科学的な思考・分析を駆使してアプローチし、仲間や他者と協力ながら一つのプロジェクトを成し遂げるというトレーニングを行う期間なのです。どのような職に就くにしても、卒業後社会に出たあと、ここでトレーニングしたことは必ず役立ちます。つまり理系の学位は研鑽を積んだことの証、と言い換えられるでしょう。海洋の研究そのものはトレーニングのための題材の一つですが、我が国、あるいは世界をリードする技術者・科学者を志す皆さんにとっては、我々の研究室の一員となることにより、目標に近づくための手応えのあるトレーニングを積むことができるでしょう。

プライベートを充実させる

 学位審査までの時間は限られていますので、自分の研究テーマをまとめあげるためにはそれ相応の努力と労力と時間が必要です。しかし、連日連夜終電間際の夜遅くまで研究室に残り、あるいは家に帰らず寝袋で仮眠を取り、土日もろくに休まずに研究に明け暮れる、という生活はいかがなものかと思います。私にもそういう時代はありましたし、特に仲間と一緒ならそれもまた楽しいということはよく知っています。もちろん学位審査や論文投稿の締め切り前などの非常時にはそのような生活パターンにならざるを得ないこともありますが、平常時はオンとオフをきちんと切り替えられる人でいて欲しいと考えています。つまり、やるべきときは集中して研究や勉強に励み、休む時は休んでプライベートを充実させる。私の経験上、一般的にそういう人の方が仕事の効率が高く、往々にして良い成果をあげる傾向があると考えています。ですから、必要のないときには土日休日はしっかり休み、夏休みや春休みなどは長めの休暇を取り、旅行に行って見聞を広めるなり、実家に帰って親孝行をするなり、自分や家族のために時間を使うことを推奨します(自戒を込めて)。

私の学生時代〜おわりに

 私は学部時代は体育会ヨット部に所属していたのですが、年中合宿をする部だったので全ての科目で出席点が低く、単位はいつもぎりぎりで、よく留年しなかったと思うくらいの典型的なダメ学生でした。修士課程進学のときは学部の評点が足りず、平均点に達していれば良いという内部推薦の資格すら満たしていませんでした。しかも、大学4年で研究室所属するまでは水工系、海岸・海洋系ではない他の分野の研究室を志望していました。その研究室はとても人気があって、3月末の研究室所属の割り振りでは希望者多数のためじゃんけん(!)が行われたのですが、それまでの行いへの報いか、あっさり負けました。しかし、その後尊敬できる指導教員に巡り合い、研究者の道へ進むことになり、刺激を与え合える友人や同僚や上司に恵まれ、今またこうして大学に戻って教員になっているわけですから、人生何が幸いするか分からないとつくづく思います。

 「求められる人材」の項に書いたような人物以外にも、例えば私のようにサークル活動やバイトや恋愛などで学部時代に学業が疎かになっていたけれども、これではいけないと思っている人、逆に学部の講義に今ひとつ物足りなさを感じていた人、閉塞感漂う日本を救いたい!という意欲のある人、世界に飛び出して活躍したいと考えている人、我々の研究室ではそういう人たちを歓迎します。大学や教員が何をしてくれるのかも重要ですが、これからは自分が何をしたいのかということがもっと重要になります。理系の大学生生活のクライマックスは研究室所属後に訪れます。研究室で過ごす数年間では、友人や先輩後輩とともに研究ライフを楽しみつつも互いに切磋琢磨して自分を磨き、将来何になりたいのか、何をしたいのかをじっくりと考えてもらいたいと思います。

First written on Mar-01-2011
Revised on Feb-13-2012
Revised on Apr-10-2013